ルディー和子著
日本経済新聞社 (1998)830円
ダイレクト・マーケティングの実際 (日経文庫) | |
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「CRM」という言葉がある。
ソフトウェアの種類の名前ではない。
CRMとはCustomer Relationship Managementの略で同一製品をマス・マーケットに向けて大量販売する、という手法が頭打ちになりつつある時にその打開策として、あるいはマス・マーケットを対象としたそれまでのマーケティング方法の反論として形成された。
対象をより個人に絞り、属性および、その個人と企業との関係履歴を反映した働きかけ・それに対応した商品開発を行うよう求める方法論である。
マーケティングの基本的な考えとして消費者らをそれぞれが持つ属性に応じてセグメント化(グループ化)をし、そのなかの企業にとってベストのセグメントをターゲットとして商品開発を行う、というものがある。
CRMというのはそのセグメントをさらに細分化して顧客へ働きかけ・対応を行うマネジメント手法と考えて良いと思う。
大量の個人それぞれに的を絞った働きかけ、というのは安価で信頼性のあるデータベース、およびそのデータベースを管理する使いやすいソフトウェアが登場する以前は(比較としてより低いコストでそれに見合う量の販売が見込める別の方法がある時点では)コスト的に見合わないものとされていった。
しかし、情報技術をめぐる環境が変化した現在、そのコスト的な問題は解決されCRMという方法論は企業の中で普及していき、企業の中で個人情報が大量・詳細に保持されるということになった。
歴史的に見てCRMというやり方がいきなりドカンと現れたわけではなく、企業が特定の「お客様係り」などに依存することなしに、「組織」として「大量の」消費者個人にそれぞれに属する「情報」を参照し働きかけ方を変えるという手法は(CRMのように詳細かつ広範で共有可能な個人情報は使用しないとしても)実は一世紀以上前から行われていた。
アメリカ合衆国における通信販売がそれである。
通信販売において最終消費者との間に小売というチャンネルは存在しない。
したがって、通販会社は一般的な小売店よりも大量の最終消費者と直接(コミュニケーションは雑誌など媒体を通さなくてはならないが)向かい合うことになる。
その中で自然と消費者への働きかけ方法が構築・蓄積されたいったわけである。
それが「ダイレクト・マーケティング」という方法論であり、 そのなかの一部にCRM的な方法論がある。
ダイレクト・マーケティングは非接触型のコミュニケーションからいかに消費者の購買意欲を効率的に引き出すかを示す。
たとえばこの書には
・消費者の属性によって送付するカタログのバリエーションを変える。
・(消費者の過去の行動から導いた)ある条件下での購買可能性とその条件を形成する販促コストの関係から最適な働きかけ方法を決定する。
・各媒体の特徴(「プル(pull)」型、「プッシュ(push)」型など)に応じてコミュニケーション方法を変える。
などが簡潔に記されている。
「ダイレクト・マーケティング」の方法をインターネット上の消費者への働きかけにも使うことができるというのは自然に出てくる考えだろう。
基本的にインターネットを介してのコミュニケーションは非接触型であり、メディアとしては「プル」型(消費者から情報への積極的な働きかけがすでにある)に分類されている。
この書にもその辺りのことが書かれ、ネットを利用した手法も紹介されているが時代遅れの感は否めない。
しかしながら、現在ネット上ですでに定着した「顔の見えない相手との商業活動」を行う際にさまざまな示唆を与える書である。