『インターネット社会のマーケティング』
石井淳蔵・厚美尚武著 有斐閣 (2002)2400円
インターネット社会のマーケティング―ネット・コミュニティのデザイン | |
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石井 淳蔵 厚美 尚武
有斐閣 2002-04 おすすめ平均 |
インターネットの普及は人のコミュニケーション行為に大きな影響を与えた。
そのうちの一つが、これまで限られた人しか体験することができなかった「ネット・コミュニティ」への参加体験である。
「ネット・コミュニティ」といわれてもいまいちピンとこないかもしれないが、要はアクセスすると
「いつも誰かが居る・誰か居る痕跡が残っているネット上の『場所』」
のことだとイメージしてもらえれば良いように思える。
当然『場所』にはさまざまな雰囲気がある。話しやすい雰囲気、ふざけても大丈夫な雰囲気、ダメなこと言わなければならない雰囲気、言葉を選ばなければならない雰囲気……。
ネット上で商業活動を行うに際してこのような人の集まる『場所』に注目が集まるのは当然のことだろう。あるいはそういう『場所』を作ってみたいと思うかもしれない。
この書はそのような「注目する人」に対して安易な考えはやめるよう忠告する。
というのは、コミュニティを形成する原動力と企業の商業活動とはアンマッチを起こしやすいからだ。
もう少し詳しく述べると、
・コミュニティが形成されるのはその参加者の「ボランティア精神」を必要とする。当然そこにはコミュニティを「居心地よい」場所にするための適切な管理も必要である。もちろんそれは「ボランティア精神」でもって行われる。
・しかしコミュニティの規模が大きくなるにつれてその「ボランティア精神」ではカバーできない領域がでてくる。
・そのカバーできない領域は追加資金(つまり設備の更新や専従者を雇うこと)によってカバーできる場合が多い。
・管理者側はコミュニティを利用してその資金を稼ぎ出そうとしがち。
・しかし今までボランティア精神でコミュニケーション行為を行っていたコミュニティの参加者は突然乱入してきた(ように映る)その「商業的行為」に拒絶反応を示し、今まで行ってきたコミュニケーション行為を止めようする。
となる。
このことに対する解決策としてはこの書は「コミュニティを設計する際にその商業的な活動をコミュニティ参加者が納得して受け入れられるようあらかじめ『仕掛け』を仕込ませておかなければならない」と主張する。
この『仕掛け』の塩梅がいろいろと難しい。
この書には書かれた当時(2001年ごろ)、商業的にも軌道に乗っているさまざまなネット・コミュニティに対する分析が載っている。当然、現在では通用しない(ネット参加者が学習して予期してしまい効果が逓減している)アプローチもある。
しかしこの書で書かれたネット・コミュニティへのアプローチ方法は現在でも(社会的にネット・コミュニティのリアリティが共有されている現在だから?)参考にできる部分が多いと思われる。