書籍紹介 『行動分析学入門』

『行動分析学入門』

杉山尚子著
集英社(2005) 660円

行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)
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集英社 2005-09
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star非常にわかりやすい。入門に最適。
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1.行動分析学とは「行動」の「原因」を分析する心理学の一派。
↑では何をいっているかよく分からないので、自分なりに行動分析学のフレームワークを解説すると以下のとおり。

■行動分析学が対象とする「原因」は2種類ある。

(1)とりうるあらゆる「行動」のうちでその「行動」が選択された・拒否された(=「強化」「弱化」された)原因。

(2)ある人のある「行動」をキックする環境的かつ具体的な要因。

※本書の中で「原因」とは(2)の意味で多く使われているので、行動分析学の枠内で「原因」と言えば(2)の意味で使われていると考えられる。

また本書内では(1)の意味を表すために「原因」の代わりに「『好子』の出現・消去」、「『嫌子』の出現・消去」という著者の造語が使われている。

■行動分析学が対象とする「行動」(原語ではbehavior)は日常的な意味ではなく、独特の定義づけがされている。

「行動分析学の学祖スキナーによれば『行動とは生体のもつ機能の中で外界に働きかけ、外界と交渉をもつもの』と定義した。」(p35 l8)

これだとかなり具体的にイメージしにくいのでスキナーの弟子オーシャン・リンズレーは以下のように言い変えた。

「それは、『行動とは、死人にはできない活動のことである』という人をくったものである。」(p35 l14)

2.行動分析学が対象とする行動の開始終了プロセスの形は以下の二種類。

■「レスポンデント行動」

  • 外界の刺激「のみ」に対応して発生する行動。埃が目に入ると涙が出る、などの上記の2種類の「原因」うち(2)のみが原因のもの。

■「オペラント行動」

  • 外界の刺激と、その時点でのどのような行動が「強化」されているか、で発生する行動。上記2種類の「原因」を備えたもの。

3.行動分析学が主な研究の対象とするのは後者の「オペラント行動」。

  • 分析およびその結果には「具象的なレベルで完結するもの」が求められる。
  • 内面心理的な視点(「嬉しい」とか「悲しい」とかの「気持」を原因とする考え)は「医学モデル」だとして退けられる。

4.オペラント行動が「強化」(⇔「消去」)させられるには行動後の状況の変化(「『好子』の出現」「『嫌子』の出現」「『好子』の消去」「『嫌子』の消去」)による。
……つまり行動後の状況変化を学習することによって、この後のオペラント行動は変化するのである。

「好子」「嫌子」と「強化」「弱化」の関係は以下の通り。

A1刺激 → B1行動 → 『好子』の出現 → A1刺激時のB1行動の強化
A2刺激 → B2行動 → 『嫌子』の出現 → A2刺激時のB2行動の弱化
A3刺激 → B3行動 → 『好子』の消去 → A3刺激時のB3行動の弱化
A4刺激 → B4行動 → 『嫌子』の消去 → A4刺激時のB4行動の強化

ex)トイレが暗い(「原因」) → 明かりをつける(「行動」) → 明るくなる(「好子」の出現)
⇒トイレに入った時に明かりをつける行動が強化される。
→トイレがちょっと暗くても無意識のうちに明かりをつけてしまう。

実際の分析では行動の「強化」をもたらした行動後に表われる「こと」を「好子」(他はこれ倣う)とするらしい。
つまり「好子」「嫌子」は行動者の主観的判断によるのではなく、第三者の観察によって指摘されるものである。
行動者が「気づいていない」ことが「好子」「嫌子」となっているかもしれないのだ。
詳しくは本書にて。

このような分析で得られる知的利益の一つが「(他)人の行動パターンを操作できる『可能性』」の獲得だ。
原因が具象的なレベルで考えられている(らしい)ので、その「原因」を操作することができる(かもしれない)のである。
組織マネジメントで行動分析学が取り入れている理由がこのあたりにあるのだろう。
但し、実際の運用には現場状況の複雑さを必要程度に理解する必要があると思われる。操作をしてみたら想像外のものが出てきた、ということはよくあることである。


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